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曲がると釣れる

「あんな、あんな、お姉ちゃんとかナユちゃんとかがな、
言うこと聞いてくれへんねん!」

裏で遊んでいた次女が、玄関を開けて泣いている。


まともに聞いても本人が悪いことがいつものことで、はいはいと慰める。

泣き止んだ娘は部屋の中でふてくされる。

それでも窓の向こうから、他の子供達が楽しそうに遊んでいる声が聞こえる。

自分だけ退屈なのは嫌だし、自分が不在にかかわらず、
楽しそうに遊ばれるのは、ずいぶん面白くないことだろうと思う。

「釣り行きたい」と娘は言った。

何日か前、裏の家の子が父親と釣りに行くのを見て、
「私も」と思っていたのだろう。

風のある日だったが、あまりほうっておいてひねくれても良くない。

そう思ったので次女と釣りに行った。

エサで釣るにはミミズとりから始めないといけない。
手間だからルアーにしようと思った。

でも大きなルアーでは、魚が釣れたり釣れなかったりする。

それでは小さな子は退屈してしまう。

だからサビキという、釣り針をエビのように加工したものを一本つけて、
それで釣りをすることにした。

サビキ

これならエビと間違えて、小さい魚はよく釣れる。

小さな子には、それぐらいがちょうど退屈しなくていい。

漁港について、サビキを水につけると、小魚が寄ってきた。

「ほら見てみ。これ投げて、リールをくるくる巻くと、この魚が食いつくからな。」

これを釣らせておけば、気も晴れるだろうと思った。

「お手本見せたるからな」

そう言って私は10センチもない小さな魚を3匹ほど釣ってみせた。

仕掛けを投げるのは難しいので、私がサビキを遠くに投げて、
娘に竿を渡し、娘がリールを巻いた。

その動作を何度かくりかえすと、娘の持つ竿がぐにゃりと曲がった。

何が起こったか、わからない娘は、腰を引かせながら、
しばらく巻いたのだが、起きている事態がわからず、
怖くなって竿を私に預けた。

おっきい魚

引き上げてみれば次女は大きな魚を釣った。

見せたお手本とはまるで違うサイズなので、
何がお手本か?恥ずかしい気もした。

その気持を埋め合わせるために私は娘に竿は渡さず、
ムキになってサビキを投げたが、
変わらず小さな魚が釣れ続けた。

大きな魚を釣った娘は気が大きくなっていた。

小さな魚が上がるたびに、上から目線で私に
「大きな魚を釣るテクニック」を説明する。

「あんな、竿がな、ぐんにゅーと曲がると、おっきい魚釣れるで。」

因果関係が逆だった。

「大きい魚が“釣れたら”竿が曲がるんやで」と私はいった。

「え?違うで。竿がぐんにゅー曲がると、おっきい魚が釣れるんやで」と娘はいった。

「どうやったら曲がるの?」

「ぐんにゅー曲がるの」

私にはそのような技工はできず、その日、おっきい魚は釣れなかった。